染色業を主軸に、染色と加工の技術を活かしたファクトリーブランドを展開する東北整練。明治時代から続く米沢織の織元として、紅花染めにこだわり染織を手がける新田。米沢の繊維業に携わるふたつの企業から、東北整練株式会社の清田秀嗣氏、株式会社新田の新田真有美氏と織物職人の末野千歌子氏、商品管理の細谷和香子氏を招き、それぞれの視点から見る米沢の繊維業の魅力、またその可能性を探るクロストークを実施した。
米沢織
米沢織は江戸後期に、上杉鷹山公によって産業化され、以来植物染料で先染めした高品質な織物として発展。現在では、伝統的な絹や麻の織物をはじめとして、化繊などさまざまな糸を織り込むことで、着物や袴などの和装はもちろんのこと、ジャケットやドレスなどの洋装にも対応し、国際的なデザイナーにも器用されるなど世界的にも評価を受けている。
米沢の繊維業
伝統的な絹織物から発展し、天然繊維と化学繊維による服地や呉服の総合的なテキスタイル産地を形成する米沢市。織元をはじめ、その関連業種である染色、織物仕上げ、ニットなど様々な繊維産業の業種が集積した織物の町となっている。米沢は、帝人株式会社による人造絹糸(レーヨン)誕生の地としても知られる。
―御社が扱うプロダクトについてお伝えください。
清田:東北整練では、後染めの委託業務や生地自体の企画をしていますが、近年に入ってからは米沢織の機屋と共同し婦人用スカートを開発。「シリンド」の名でファクトリーブランドを展開しています。また、開発推進中の生地の性能を高める「MVA(ミヴァージュ)加工」という特許取得技術も開発し、今後の商品開発に活かしたサスティナブルな染工場を目指しているところです。
細谷:もともとは袴地の生産からはじまった新田ですが、時代とともに女性ものの着物の割合が大きくなり、現在は袴を1割程度残すものの、ほぼ女性ものの着物や帯などを手がけています。
新田:近代の和装から洋装への変化に伴い、米沢織の業界自体も縮小したと聞きます。そのことを踏まえ、私は普段着物を着ない方でも気軽に使っていただけるよう、「Nitta Fabrics」の名で米沢織の生地でつくる新しい製品の開発に着手しました。この事業を通して、米沢織の良さを多くの人に知ってもらいたいと思っています。
―米沢織の魅力はどのようなところにあるのでしょうか。
新田:私たちは絹専門で米沢織と向き合っていますが、地域の織元を見ると、絹以外にも綿や麻、化繊など、その用途やデザインに合わせてさまざまな糸で織っていて、着物以外にも服地だったりショールだったりと、多品種の製品をそれぞれの織元の個性を活かしてつくっています。米沢に来れば、いろいろな生地と出会えるということが、ひとつの魅力になっていると感じます。
清田:本当にそうですね。それぞれの織元は強いこだわりを持っています。以前、新田さんの紅花で染め上げた絹糸を見せていただきましたが、その絹糸のまわりがほわっとあたたかいような感じを受けました。天然素材の色だからこそ醸す感覚というか。そのように染色にこだわられる方がいれば、無地の絹にこだわる方もいる。また多繊維を組み合わせた織にこだわる方など、本当にさまざま。こだわりの分だけ新たな色の組み合わせや、新たな風合いの生地が生まれるのでしょう。
―プロダクトの制作にあたり、色やデザインへのこだわりはありますか。
清田:ファッション業界では、数年後の流行色は決まっています。染色を基本とする私たちとしては、指定された色をどれだけ忠実に再現できるかを大事にしています。多品種の糸を織り込んだ生地もあり、後染めでの色の再現には技術が必要です。どうしても、というときは感性に頼るほかありませんが、9の技術と1の感性で挑むことが、私たちには求められています。
新田:米沢には四季折々の美しい風景がありますが、私たちのものづくりは、その豊かな自然の色彩からヒントを得て表現しています。一見するとただの無地や縞模様に見える着物地も、よく見るとさまざまな色が入っていたり。この地域の自然を織り込むことは、私たちのこだわりなのかも知れません。
末野:織るだけ売れるという時代は過ぎ去りました。だからこそつくり手としてはひとつ一つの作品にこだわることができるし、本当に欲しい人はそれを見極めます。自分が感じた想いも、ひと筋の糸とともに織り込める時代なのだと感じています。
―繊維業が盛んな米沢。未来への展望をお聞かせください。
新田:日本の着物文化を支えたいという思いとともに、その生地を活かしてほかの製品を生み出すことで、国内はもちろん海外にも米沢織を発信していきたいと考えています。価格ではなく、価値で求めてくれるファンづくりに努めていきたいです。
清田:価格ではなく価値。時代はそのように変わりつつありますから、海外の方へ向けて米沢織を発信することで、国内の方にもその魅力を再認識してもらえるのではないでしょうか。300年を超える米沢織の歴史こそが、その高い品質を担保してくれていると思うのです。
清田秀嗣 幼き頃より繊維業が身近な環境で育つ。二十代後半からは生地に携わる仕事に就き、現在は東北整練の営業部長として地元の機屋と共同し、メイドイン米沢の商品を発信している。
紹介ページはこちら
新田真有美 和歌山県出身。前職では京都の老舗西陣織の会社にて、新規事業に携わる。新田五代目との結婚を機に9年前に山形へ。現在は米沢織を使った小物の開発や、海外に向けた広報事業に携わる。
紹介ページはこちら
※先染め:糸を先に染めること。色の異なる糸を組み合わせて織ることで、最終的には柄のある一枚の生地仕上げていく技術のことを指す。
※後染め:完成した生地に、色付けすること。その方法には、液流染色などがあり、手間をかけずに流行に対応できるメリットがある。