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風土の手ざわり 天然繊維の可能性を紡ぐ、山形のつくり手たち

フラックス(亜麻)という人類最古の繊維素材に注目し、リネンを用いたニットや生活雑貨を展開するケンランドの大沼秀一氏と、ウールはもちろんのこと、麻や他素材を用いた絨毯を展開する穂積繊維工業の穂積勇人氏。おふたりによる対話を通じ、それぞれがものづくりに込める思いと、人の暮らしに最も身近な存在とも言える繊維製品の可能性を探る。

リネン

亜麻の茎から採った繊維をフラックスと言い、フラックスで作った糸や布をリネンという。紀元前エジプトでも使用され、人類最古の繊維とも言われている。肌触りが良く、使い込むほどに馴染んでいくとされ、天然素材としての愛好家も多い。

ウール

羊の毛であるウールは伸縮性に優れた特徴を持つ。繊維の表面には独特のちぢれがあり、この形状が保湿性、吸湿・発散性を作り出している。そのため冬に暖かいのはもちろんのこと、夏の間も湿気を感じることはなく、動物由来の優れた繊維のひとつである。

広義には植物繊維の総称を指す。細かくはフラックス(亜麻)をはじめ、苧麻(ラミー)や黄麻(ジュート)、大麻(ヘンプ)など20種類ほどあるとされている。素材としては一般的に通気性・水分の吸収性・放出性に優れていて、保温性もあるとされる。また、古事記に、神事で麻を使ったと記載があるなど、長く日本の伝統、文化、生活を支えてきた繊維素材である。

―扱っているプロダクトについてお伝えください。

大沼:フラックスを原料とする、リネンを中心としたものづくりをしています。それはこの繊維の特性に惹かれ、使い込むほどに柔らかくなり、吸水性や発散性に富んでいて、なおかつ菌を増殖させないためです。しかしながら当初は苦労しました。私たちは以前、OEMによるニットの製造メーカーでしたが、そのニット自体、リネンで編むのは難しいとされていたのです。固いフラックス材の糸は織ることはできても編むことはできないというのが常識でした。しかし、原料の加工や染色、製造までを一貫して行う設備とノウハウを持ち合わせていて、なんとかリネン生地のニットを編むことにたどり着けました。リネンニット生産の成功後は、生活雑貨や床ずれを予防できる医療現場に応用できるようなシーツなどの開発にも着手し、今もフラックスを原料としたリネン製品を中心に事業を展開しています。

穂積:私は大沼さんが言うような原料や素材への大きなこだわりはなかったのですが、家業である絨毯製造業の分野で、さまざまな素材を使って製品を作れることに絨毯づくりの可能性を感じています。以前、ウールに特化して絨毯づくりをしていた頃、父が麻製の絨毯づくりをはじめました。ときは高度経済成長期で、冬はウール、夏は涼しげな素材という業界的な流れがあったのでしょうか。麻を使った父の絨毯は注目を集め、例えば脱衣所に敷くマットとしての需要につながったのです。その後時代は進み、異素材を編み込むことで新たな絨毯や敷物を生み出せるのではないかと開発を進めています。現在では、ウールと麻のほか、廃棄されるデニムの耳を使ったマットなど、時流に合わせたさまざまな製品を手がけています。

―おふたりが扱う繊維素材についてお伝えください。

穂積:国内では、まだ天然繊維についての認識が薄いと感じています。麻と言ったら全てが麻。そのなかには大沼さんが使っているフラックスもあれば、苧麻(ラミー)や黄麻(ジュート)も含まれている。私が主に使っている麻はジュートで、硬くて腐りにくいもの。私たちは絨毯などの敷物を作っていますが、例えばウールと合わせることで、通年で心地よく使ってもらえるようにもなります。麻のサラッとした質感、ウールの温かくてしなやかな質感を、ときには同居させたり、切り離したりして製品を作っています。デニム製造の過程で出る「耳」と呼ばれ廃棄される部分もときに材料としますが、その極めて固い手触りさえにも、愛着と面白さを感じています。

大沼:絨毯であれ服飾であれ、素材を考えることはとても大事で、かつ今の時代においては地球環境にさえ視野を広げていいと思っています。そういった意味でも、収穫した時期で質感や色味も異なる天然素材ならではの良さを知ってもらいたいです。

―どんな方に自社の製品を使っていただきたいですか。

大沼:ざっくりと言うならば、自分の暮らしに問題意識がある人に使ってもらいたい。寒さや暑さなど様々なシチュエーションで問題を解決するために、自分たちの製品が役立てればいいと思います。繊維に性能があるという考え方こそが一般から離れているのかもしれませんが、それは“暮らしやすさ”に直結するものだと考えています。

穂積:ものを見る感性は人それぞれだけど、山形には繊維を使った多くのものづくりが確かにあるから、それらを一つひとつ試してもらいたいです。自分に合う合わないもあるし、僕らのつくるものに価値を見出してもらえたらうれしいですね。意外と近所で作っているものが、自分にとって最高な“いいもの”ということもありますよ。

大沼秀一 山形市出身。自社にて大手ブランドのOEMニット製品を手がけてきたが、地球の環境問題への関心が高まるにつれ、天然素材に注目する。以後、ニットなどの洋服や、タオルやシーツなどの生活雑貨をリネンなど用いて製作し、広く発信している。

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穂積勇人 中山町出身。大学進学を機に11年新潟で過ごし、バンド活動の傍らさまざまな職種を経験。その後、家業である絨毯製造業の魅力に惹かれUターンし、現在はウールや麻を使った絨毯を主に、製品の製作・開発を行っている。

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