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温故と知新 山形鋳物の可能性を切り開く生産者と未来を担う若者たち

時代に合わせながらも、長く使えて暮らしを華やかにする道具を鋳造で表現している雅山の長谷川雅也氏。東北芸術工科大学でデザインを学ぶ手塚由基氏と小野未羽氏のふたり。伝統を守る生産者と未来を担う若者のクロストークにより、山形鋳物の魅力、またその可能性を探る。

山形鋳物

発祥は約1,000年前の平安後期。源頼義が奥羽平定に乗り出した際、従軍していた鋳物職人が、山形市内を流れる馬見ヶ崎川の砂と付近の土が鋳物の「型」に最適であることを発見し、数人がこの地に残ったことが始まりと伝えられている。機械鋳物と工芸鋳物に大別され、茶釜や鉄瓶、花瓶、鉄鍋といった生活工芸品は、1975年に伝統的工芸品に指定されている。伝統に磨かれた独特の鋳型作り、文様押し、肌打ち、漆仕上げ等、非常に古くからの技法のため手間と高度な技術が必要とされるが、これにより山形鋳物の「薄手で繊細、美しい肌」という最大の魅力を創りあげている。また近年は、伝統を受け継ぐ現代の鋳造家たちによって、デザイン性に富む工芸品も数多く展開されている。

―扱っているプロダクトについてお伝えください。
 学生さんはこれまでの山形鋳物のイメージを教えてください。

長谷川:茶釜や鉄瓶、花瓶、スキレットなどの鋳物を扱っています。銅器としては花瓶が多いのですが、長く使うに従って大気中の酸素や紫外線などで少しずつ緑青の色合いが変わるなど、いろいろな変化が生まれます。鉄器の場合は、内側にどんどん油が染み込んでいって、旨味が凝縮され、どちらも時が経つにつれて経年変化を楽しめるのが大きな特徴と言えます。時代はインターネットの普及により、とても速いテンポで流れていますが、我々の仕事はスローライフの典型というか、時間の変化を楽しむという感覚が特徴ですね。

手塚:これまで山形鋳物に関してはほとんど知らなくて…。自分たちの世代が買って使うというイメージがなかったです。おばあちゃんの家にあるとか、硬くて重いイメージがありました。

小野:私は大学の授業で、モノづくりの歴史を学ぶ過程で鋳物については知っていましたが、実際に見たり触れたりしたことはありませんでした。ちょっと敷居が高く、高価で重厚感があるイメージでした。

―山形鋳物の温故知新についてのお考えをお聞かせください。

長谷川:伝統技法というのは、長い年月を経てたどり着いたひとつの技法だと思います。私たちが扱う製品は、型取りにしても仕上げにしても、着色に至っても大変時間が必要な技法となります。そのため、先ほど学生さんがおっしゃったように、高価なものになってしまっているのが現状ですが、技術は落とさずに、なるべくコストのかからない方法でみなさんに提供していく努力が必要です。しかし、安くたくさんつくって技術の良さを殺すようであれば、それは全く意味がない。兼ね合いも大事です。

長谷川:近年では3Dプリンターの導入など、新しい要素を取り入れたり、若い世代の声を聞いたり、そういった面では息子が若いので新しい技術に詳しく、非常に助かっています。息子は1人の消費者として「この着色技法はいいと思わない」など、若い世代の生の声をズバリと言うものですから、助かる反面、嫌なことを言うやつだなとは思いますね(笑)結局我々は既存の技術にどっぷりと浸かっているものですから、新しい方法を模索するというアンテナが立っていないのかなと反省しています。勘所を外さなければ、新しい要素を取り入れていくべきだと思っています。若い世代の声といった点では、東北芸術工科大学の学生さんと交流しながら、プランニングなどを勉強して発表会を行う機会もありました。

手塚:産学官連携活動で、「デザイン思考イノベーション創出事業」というデザイン思考を活用して新製品や新事業を検討・提案するプロジェクトに参加させていただきました。プロジェクトで雅山さんは県産食材をおいしく味わえるプロダクトについての提案を、僕たち学生は、大切な思い出をオーダーメイドで鋳物にするだけでなく、AR技術を用いることで色根せない思い出にするサービスについて発表させていただきました。若い僕たちだからこそ発想できるものを提供していくことで、知らない人たちにも知ってもらう機会をつくるのが僕たちの役割なんじゃないかなと。また、長谷川さんの伝統的なものを今の時代にどういった形で生み出し、それを送り出していくのかという考え方は、今の自分にとってすごく大事なことだと思いました。

小野:プロジェクトを通して、鋳物について学んだり、実際に作業されているところを見学したり、また、今日の長谷川さんの話を聞いて、大量生産のこの時代にひとつずつ丁寧につくられている雅山さんの製品には温かみがあるからこそ、私たちの心に刺さるのだと感じました。あとは、現代の新しい技術と掛け合わせることで、さらに面白いものが生まれるんじゃないかと思っています。

長谷川:鋳物の異種融合、ハイブリッド化を目指すべきであろうと思います。山形には大変おいしいものがいっぱいあるので、それを調理する道具としての「山形鋳物」と「マーケティング」をハイブリッド化して、製品をつくり上げていくべきであろうと思っていますし、単品の魅力プラス食文化の融合ということを今後の目標として掲げています。

―山形鋳物の未来への展望をお聞かせください。

長谷川:山形鋳物の魅力を感じ取っていただきたい。そのためには、生産者たる我々がみなさんのライフスタイルに参入できるような製品をつくっていくことが必要不可欠です。これからどんどん生活に参入できる道具をつくっていくつもりです。

手塚:長谷川さんは長年続いてきた技術・伝統を引き継ぎつつ、新しい時代に合ったモノづくりをしていらっしゃることを知りました。山形鋳物を多くの人に愛してもらえたらと思っています。そして将来はグラフィックデザイナーとして、雅山さんの製品をポスターなどで紹介する機会があればうれしいですね。

小野:モノづくりは、デザインを使えばもっといろいろなことができるんじゃないかなと、今回のプロジェクトを通して感じました。新しいことと伝統を掛け合わせて、山形鋳物が多くの人の手にわたって時を刻むというか、相棒みたいな存在になったらいいなと思いました。

長谷川雅也 山形市銅町出身。雅山の4代目。武蔵野美術大学造形学部彫刻科を卒業後、イタリアの国立ローマ美術大学彫刻科へ。ろう型鋳造、胸像・モニュメントなどの彫刻分野の技を極めた作家としての顔も持つ。伝統技術を残しながら、さまざまな手法と技術を、鋳造を通じて表現している。

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手塚 由基 栃木県出身。東北芸術工科大学 デザイン工学部 グラフィックデザイン学科3年所属。エディトリアルデザインやブランディングデザイン、パッケージデザイン、UIデザインなどを学んでいる。日本語の響きや漢字が好きで、文字を大切に使ったデザインをしていきたいと、グラフィックデザイナーを目指す。 小野 未羽 宮城県出身。東北芸術工科大学 デザイン工学部 プロダクトデザイン学科3年所属。専攻は空間デザインで、色を使った空間デザインやインスタレーションなどを学んでいる。将来はデザインを使って長く人に寄り添えるようなサービスやプロダクトをつくれるようなデザイナーを目指している。

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ARグラスやARアプリ等を通して見ると、見ているものに関する情報が見られるなどの使い方がある。

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