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山形県産品ポータルサイト いいもの山形

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山形県鶴岡市温海地域――新潟との県境近くに位置する山あいの関川集落は、冬は二メートルを超える雪に覆われる豪雪の里。ここには、日本最古の織物の一つとされる「しな織」の文化が受け継がれてきた。しなの木の樹皮をはぎ、清らかな川にさらし、内皮から繊維を取り出し糸を績んで(うんで)布に仕立てる。厳しい冬と向き合い、地域の風土と共に生きる暮らしの中から育まれてきた知恵の結晶だ。

しなのおり

いにしえへ扉が開いた瞬間

羽越のデザイン企業組合代表・冨樫シゲトモさんがしな織の現場を体験したのは、温海地域の自然体験プログラムをつくるNPOでの仕事がきっかけ。子どもの頃から存在は知っていたものの、実際の現場は見たことがなかった冨樫さん。地域の小学校での「しなの木の皮剥ぎ体験」に参加して衝撃を受けた。

 

「はじめての体験だったのですが、自分の生まれた土地で、こんな営みを続けているんだ!という驚きと、同時に懐かしさがこみあげてきたんです。まるで縄文時代から続く暮らしの息吹と自分自身がつながるような。記憶の扉が開いたような感覚でした」この体験が大きな転機となり、文化継承を支える活動に足を踏み入れていったという。

しな織の継承をサポートしていく

しな布は、水に強く丈夫で、農作業着や漁網、酒造りの袋など暮らしの中で欠かせないものだった。しかし木綿が普及し、戦後に入り人々のライフスタイルが激変していく中で、しな織に携わる人が減り、高齢化も進み、継承が困難な局面を迎えている。

話す人

「しな織だけで生計を立てるのは難しい現実があります。でも僕らにできるのは、知ってもらい、触れてもらい、関わってもらうこと。その裾野を広げていくことなんです」文化の認知向上や関係人口を増やす一端を担うべく、羽越のデザイン企業組合として手がけているのが、しなの花から生まれたオーガニックスキンケアコスメとお茶。[umunowa]というブランド名には、しなの木から繊維を取り出す「しな績み」から着想を得て、その循環の輪を広げたいという願いが込められている。

しなの花、ワンボタニカルのポテンシャル

6月にわずか8日間だけ花を咲かせるしなの木。その花にはリラックス効果や抗酸化作用をもつ成分が豊富に含まれていることが研究機関の調査で判明。その特性を活かし[umunowa]から生まれたのが、天然成分100%の化粧水「しなの花水」だった。シナノキエキスを豊富に含み、肌なじみがよく潤いを与えて健やかに保つ。

化粧水

「“ワンボタニカル”であることにこだわりました。化学的な合成成分を加えず、森からそのまま届ける。僕が森で感じた感動を、そのまま伝えたかったんです」天然成分100%にこだわるということは、化学的処理を一切加えず、植物を搾ったり浸したり蒸留したりと、すべて人の手からつくられるということ。ひと吹きすると、森の中で深呼吸をしたかのような甘く優しい香りが広がる。

お湯に花咲くリトリートティー

さらに、しなの花を丁寧に摘み取り、乾燥させた「しなの花ティー」もたちまち人気商品に。ガラスのポットにお花を入れて、お湯を注ぐと、乾燥していた花がだんだんと開いていく。その可憐な姿とともに甘く芳しい花の香りが立ちのぼる。

ボタニカルティー

お茶を飲むひとときが、自分の内側に静けさを取り戻す時間になる。中国茶のように、お湯をさしながら二煎目、三煎目と、味わいが淡く変化して様子を愛でる。美しい香りと見た目、そして移ろう時間自体を愉しむようなお茶。それはまるで森とつながるような癒しの体験をもたらしてくれる。

多様な恵みをもたらしてくれる森づくりへ

しなの花ティーには、関川の森に育つ3種類のしなの木のうち、最も大きく育つ大葉菩提樹の花を使う。花は木の上に咲くため、これまではしな織用の伐採時に採集していた。皮剥ぎに使う木は15年〜20年と立派に育ったものを切り倒すが、花についてはある程度成木すると咲くようになるため、伐採を待たずに採集できる。

しなの花

「大葉菩提樹も個性がいろいろあって、まっすぐの木もあれば、曲がって育つ木もある。これまでは長く繊維がとれる、まっすぐな木が重宝されてきたわけですが、皮剥ぎに向いていない曲がっている木を、どんどん横に育つように育てていけば、花も低い位置に咲くようになる。だから倒さずに摘めるようになるんです。今、地元の人たちと一緒に新しい森づくりをはじめました」

木を15年以上育てたあとで伐採して繊維をとって、また植林する。これまであった森づくりの長い時間のサイクルに、花を活かすことで……ひとつの山から毎年収入になる新しい恵みが生まれる。人が森に入る機会も増え、鳥獣被害を防ぐ効果も期待されるという。森に入る営みそのものが、地域を健やかに保つ循環へとつながっている

樹木

いにしえから続いてきたしな織という、森と共生していく文化があったからこそ、副産物としての花の価値を見出すことができた。そしてその花から生まれたプロダクツが、関川への人の循環も生み出しはじめているようです。

森と暮らし、都市と里山をつなぐ

羽越のデザイン企業組合では、現在、東京や大阪など都市圏で展示会への出店を重ねている。ブースではしな織の映像を流し、来場者が足を止める。「みなさん最初びっくりするんです。木の皮から糸をとるなんて! でもそうやって引き込まれて1、2分後ぐらいには頷きだすんです」

木の皮

冨樫さんが体験で感じた衝撃と同じように、都会の人々にもしな織の営みは深い印象を残す。背景を知ったうえで生まれたコスメやお茶を手にとることで、関川への関心も自然と芽生えていく。

実際に訪れる人も増えている。展示会で化粧水を買った小学6年生の女の子が、翌年家族とともに関川を訪れ皮剥ぎ体験に参加。さらに翌年には地元のお祭りにも足を運び、関川の米を取り寄せるようになったという。文化が人を惹きつけ、土地との新たなつながりを生んでいる。また羽越のデザイン企業組合では、製品の売上の一部を文化継承事業に充て、森の保全や子どもたちへのワークショップにも取り組んでいる。

子供達

「デザインとは、今あるものをより良くすること」と冨樫さんは語る。いにしえから続いてきたしな織という悠久の文化に、花から生まれる化粧品やお茶が加わることで、さわやかな風が吹き抜ける。これまでしな織の文化に関わりがなかった都市部の人たちを癒しながら、文化との接点にもなっている

話す人

「忙しい都会の人にこそ、自分をいたわる時間を持ってほしい。お茶を飲みながら自分と向き合う余白をつくってもらえたら」森で手摘みされた花の香りに包まれるとき、人は遠い昔から続く暮らしの記憶に触れる。その一滴や一杯が、やがて関川を訪れる旅のきっかけとなる。

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