株式会社寒河江商店 COZAB GELATO
山形の果樹の個性を
イタリア菓子に閉じ込めて
山形県山形市 /
株式会社寒河江商店
COZAB GELATO
山形市の山寺は、天台宗の高僧・慈覚大師により貞観2年に建立されたと伝わる宝珠山立石寺を中心に、古来より東北有数の霊場として発展してきた地区である。奥の院までは杉林を縫うように続く石段が荘厳な雰囲気を醸し、また俳聖・松尾芭蕉は、かつてこの地を訪れた際に“閑さや”ではじまる、あまりにも有名な句を残している。そんな山寺をひと目見ようと、昭和の中頃からは県内でも有数な観光名所として多くの人々が訪れるようになっていった。しかし、地域が観光で賑わうようになった一方で、山寺は市街地から離れた集落であり、日々の買い物などを考えれば、不便はつきもの。そのため住民の生活は、地域に根差した食料品店「寒河江商店」によって支えられていたという。高齢だった主人は早朝から仕入れに出かけては、人々に食料品を配達するなど、生活に欠かせない仕事に従事していたそうだ。現在、そのお店はすでに閉業しているが、跡地に一軒のお店が開店した。それが、『COZAB GELATO(コザブジェラート)』。『株式会社寒河江商店』が手がける、自家製ジェラートの専門店である。
同社代表取締役の石田真澄さんは、食料品店「寒河江商店」主人の孫であり、祖父から店舗を譲り受け、夫の石田大さんとともに山形へUターン。2018年にジェラート専門店を立ち上げた。以来二人三脚で、山形の素材を使ったジェラートの開発と販売に務めている。素材そのままを生かしたその味わいには、人を虜にするような力強さがある。おふたりのジェラートには、いったいどんな思いが込められているのだろう。
祖父の背中を
追いかけるように
なぜ山寺で、起業したのでしょう。
真澄 祖父は山寺で、ずっと食料品店を営んでいました。この地域にはご年配の方が多く、祖父の仕事は自然となくてはならないものになっていきました。晩年は、祖父も仕事としてではなく、ライフワークとして続けていたように思います。地域の人を大切に思っていましたし、逆に地域の方からも大切に思われていた。幼いころは、そんな祖父の働く姿を見て過ごしていました。
私は大学卒業後に上京し、飲食とは無縁の仕事をしていました。仕事も私生活も充実していて、そのまま東京で過ごしていくものだと考えていました。ところが、夫と結婚して子どもにも恵まれ仕事をしながら育児をしてく中で、自分が生まれ育った環境で子育てをしたいと思うようになりました。そんなときです。祖父がお店を閉めるという話を耳にしたのは。そして私たち夫婦にその場所を譲るというのです。「山形に帰ろう!」私よりも先に、夫がそう言ってくれました。
大 30歳のときに料理人を志し、イタリアへ渡ったのですが、そこで私はイタリア料理の世界観に触れました。それはとても地域風土に根ざしたもので、郷土の食が大事にされていたのがとても印象的でした。帰国後しばらくして妻と出会ったのですが、はじめて妻の実家で食べた夏野菜を細かく刻んだ山形県の郷土料理“だし”が、山形出身ではない私にとって衝撃的だったのを覚えています。義父によれば、それこそが畑から獲ってきたばかりの野菜でつくった“だし”の味なのだそうです。地域の食材を新鮮なうちに食べる。当時東京にいた私は、そんな贅沢なことを普通にできる山形に、イタリアで見た光景を重ねました。そして、いつか山形で暮らしたいと考えるようになっていました。だからこそ、山形で暮らせるチャンスを逃したくありませんでしたし、料理人としての経験がある自分なら、妻と一緒にできることもあると考えたのです。それから夫婦で話し合いを重ね、山形の美味しい素材を使ったジェラートを、祖父のお店があった場所で販売することにしたのです。すぐにイタリアのつてを辿り、かつて働いた街のジェラート店に弟子入りさせてもらいました。
素材第一、“ありのまま”の
味わいを生かして
販売するジェラートへのこだわりを教えてください。
大 山形の果樹を使ったジェラートの事業をするならば、まずは果樹のことを知るべきだと、果樹園の方にお願いして園地の手伝いをさせてもらいました。そのうち自然と生産者さんの知り合いが増え、それから数年経った今は、実際に園地に伺って味を確認しながら、店で使用する果樹を模索しています。またジェラートづくりにおいては、いかに自然のままの果樹の味わいを生かすかにこだわっています。それは、“素材にこだわる”ではなく、“素材にこだわる生産者さん”の邪魔をしないようにジェラートをつくることなのです。 “Materie prime(素材第一)”は、イタリアで学んだ教えですが、山形でジェラートの事業をはじめて、本当の意味で腑に落ちた気がします。
真澄 味のゴールを決めないことを、私たちは大事にしています。例年なら甘い苺が、長雨のせいで糖度が低い。そんなときは糖分を足すのではなく、別の食材であえて酸味を足して、そのときの素材の個性を生かしたジェラートづくりを心がけています。その土地が、そのときの条件で育んだ果樹を受け入れること。それこそが、味を楽しむことなのだと、広く伝えていきたいと思っています。
食で、人と人とを
繋ぐことができるなら
これから株式会社寒河江商店が目指す目標はなんでしょう。
大 とにかくこの場所に、たくさんの人を呼びたい。地方が生き残るためには、外の人が来てくれることが必要だと考えています。山形のおいしさが詰まったジェラートで、山形に、そして山寺に、もっと人を呼べるようなお店になりたいです。
真澄 私は、ギフト用の商品の充実を図っていきたいと考えています。数年前からはじめた通信販売も、今では遠くは九州のお客様から注文いただくなど、少しずつですが軌道に乗りつつあります。観光で山寺を訪れた際に、店舗で食べたというお客様からのリピートも多く、ありがたいばかりです。また、企業様のOEMの事業もさらに伸ばしていきたい。私たちにとっては挑戦ですし、コラボから生まれる出会いもあり、そこから新たな山形の商品が生まれたら面白いですよね。そして、山形で収穫された素材の味わいを、多くの方に知ってもらえるようなプラットフォームになりたい。つまりは、消費者の方と生産者さんを繋ぐような存在になっていければと考えています。食は人間にとってなくてはならない大切なものですから、そのことで山寺に、そして山形に少しでも貢献できたなら、祖父の後を継いだと胸を張って言えるようになるのかな。
株式会社寒河江商店
COZAB GELATO
- [住所]
- 〒999-3301
山形県山形市山寺4510-2
- [TEL]
- 023-695-2335
- [取り扱い商品]
- ジェラート